MEMEの日々のことども

日々の星屑を拾って書き残そう・・、そんな「85歳」。  HP「素材の小路」「MEMEのベランダ」(裸婦デッサン等)「MEMEの便箋」「ドレスの小路」「けいの部屋」など。

     

「たぬき鉄道物語」について

今から数十年前、小学4年だった息子が数か月掛けて書いた「長編物語」です。

 

何を思ったか、突然物語を書くといいだし、「毎日原稿用紙3枚書く!」と宣言! 

そして、本当に、毎日学校から帰るなり、食卓に座って「こつこつこつこつ」と、鉛筆の音を響かせてから外に飛び出すという日々が始まりました。

親としては、何が始まったのやら・・と、ただただ見守るだけでした。

 

国鉄に憧れるあまり、「たぬき村」(架空)で起こった「たぬき鉄道」騒動を、子供なりのファンタジーとして書き綴りました。

 

ところどころに描いてあるスケッチや登場人物の絵が、まさに、その年齢でなければ描けないようなもので、見るだけで楽しくなってきます。

 

 

登場人物を掲載しておきますね!

この面々が起こす色々な楽しいエピソードは、子供視線ならではの面白さがあります。

では、どうぞおたのしみに・・・。

 

(原稿用紙180枚程の長編ですが、「一話」毎に掲載していきますので、長い目でお待ち下さいませ)  

 

折角の「力作(?)」だから、電子書籍に残して置きたい・・と、中年おじさんになった、作者である息子に提案したところ、「嫌です!恥ずかしいから辞退します~!」との強硬な返事だったのだけれど、私の手元に残っている原稿を元に、内緒でそのままこっそりと綴ってみます。

 

あまりの「漢字の少なさ」に、あれ?小4って、もっと難しい漢字も習っていると思うけど・・、という懸念もありましたが、そのまま、そのまま、正直に写しています。

 

膨大な枚数になったこともあり、読み返す時間も取れなかったようで、殆ど推敲もされぬままの文章ですが、それはそれで面白いと思い、手を加えていません。

 

しょっぱなは、大人っぽい素晴らしい文章から始まったので、あれ?・・・と思って読んでいくと、その後はやっぱり4年生作・・・という幼い文章に変わって行くのも興味深い心理ですね。

 

キーボードを打っていて困ったことは、仮名混じりの単語使いが多く、変換をすると熟語が出てきて、「半分かな文字」・・・は結局手作業になりました。

 

かな文字がずらずらと並んで、ちょっと読みにくい感もあったので、MEMEが撮った写真を少し入れて「メリハリ」を付けています。

 

最初の目標・300枚には遠く及びませんでしたが、書き上げた努力だけは凄いことだったと思います。文の出来不出来は兎も角も・・・。

 

などと・・・。 ( *´艸`)

                 

                                             MEME

 

 

目次

「たぬき鉄道物語」の始まり始まり!!

 

朝の汽笛 (1)

ぬれたような静けさをうちやぶるように、朝の光がやってきた。

はじめは小さな点のような光が、一しゅん木の間からこぼれ落ちると、あたり一面矢がさしたようだ。

小鳥がいっせいにさえずりだし、草もむっくりと首をもちあげる。

 

と、むこうの谷間から、もうもうと朝ぎりがたちこめ、それが、木のはだをなでるようにして通りすぎていく。

朝ぎりのむこうに、何か大きな物がゆらめいて見える。

「ぽー!」

いせいのいい汽笛をひびかせた。

さぁ!! たぬき鉄道の一番列車の出発だ。

「シュッ!シュッ!」

じょう気をはきながらピストンを動かして、力強く加速していく。

 

「出発進行!!」

たぬきの機関士がさけんだ。

 

「ゴーッ!」

森のみんなは顔をこちらに向けて、いきおいよく機関士に手をふった。

機関士さんも手をふった。

 

「シュッ!シュッ!」

ピストンの音がだんだん早くなっていく。

 

さいわいなことに、今日もいい天気でカラリとしている。

たぬき鉄道のみんなにとっては、一番働きやすい日だ。

もう、朝ぎりは通りすぎて、あたり一面まぶしいくらいの光をあびている。

 

今日の機関当番は「たぬ神君」と「ゆう吉君」だ。

機関士の中でも、たぬ神君は一番先ぱいで、ゆう吉君は一番こうはいなので、ゆう吉君はシャベルをにぎって石炭をかまに投げ入れる「機関助士」という役だ。

早く一人前の機関士になりたくて、一生けんめいになって、汗がしたたり落ちるのも気にせずに投炭している。

よく燃えて、投炭を休んでいる時は、先ぱいの運転ぶりを毎日「ふーーん」とうなずいて見学している。

 

 

「たぬ神君」とは、へんな名前のようだが、実は、たぬ神君の生まれた朝はちょうど「えんにち」で、神様のお守りをお父さんが買ってきて、それに「神のめぐみ」とあったので、その頭文字の「神」をもらってつけたものだそうだ。

 

さいころはみんなに「変な名前!」などとはやしたてられたが、たぬ神君はちっともいやな名前だと思ったことはない。

いまでもたぬ神君は、そのお守りにひもを通して首にかけている。

 

 

たぬ神君とゆう吉君の運転する汽車は、木こりさんのたおす木を積みに山奥へと進んで行く。

「こうばい地点だぞ!砂をまいて、たくさん石炭をかまにいれろ!」

「よし!がんばるぞ!」

「ザッザッザッ」

石炭がどんどんかまに投げ入れられる。

えんとつからは、けむりがもくもくと空へあがっていき、風に乗ってどんどん後ろの方に流れる。

「きょうも事故なしでがんばろうな」

「はい、先ぱい」

 

この汽車は、最高速度30キロ、平きん速度15キロという、のろのろの汽車で、後ろの貨車は三両へん成と、小さい小さい森林鉄道。

山を切り開いて作った鉄道で、カーブが多く、急な坂道もたくさんあるので、運転士はいつも目をパッチリあけて、きんちょうの連続である。

その上、大正時代のがたがた線路のため、足がふるえて、油だんをしているとすぐ「ガツン」と頭をぶつけてしまう。

 

「百メートル前方より千分の三十上がり勾配」とたぬ神君がさけぶ。

百メートル前方より千分の三十上がり勾配」とゆう吉君。

二人でかくにんし合って大きな声をはり上げている。

だから、いつも安全運転。

 

ゆう吉君は機関士とのかくにんの声がうれしくて、必要以上に大きな声をはり上げている、。

朝の汽笛 (2)

「あと約1キロで終点の寿山の三角点だぞ」

「でも、坂が急だから、ブレーキは駅の10メートル位前でかけても、じょう気を止めればストップするんでしょ?」

「よく勉強したなぁ、ゆう吉君よ。その分ならあと一年で立派な機関士になれるず」

「ありがとうございます!」

ゆう吉君はてれて少し赤くなりながら、シャベルの柄をなでたりしてごまかしていた。

 

この列車は一番列車で、木こりさんたちをうしろの貨車に乗せて山に向かっている。

一番列車は、山に着くと、木こりさんたちが木を切る間、寿山で3時間待っていなければならない。

だから、機関士さんのたいくつしのぎに、大たぬ駅長さんが本などをたくさんおいてくれるのだけれど、雨の日以外は、みんな木こりさんのお手伝いの方がおもしろくて、一番列車の運転の時が回ってくるのを楽しみにまっている。

実をいうと、木こりさんたちにとっては、うろちょろしてかえってありがためいわくなのかもしれないが・・・。

 

「さぁ、駅10メートル手前、じょう気弁を閉じて自動ブレーキをかけて」

「連結器のふれ合う音がすると、後ろに乗っている木こりさんたちが頭をぶっつけるから、気をつけて運転するんでしょ?」

「うんそうだよ。君もあと一年でやるわけだけど、気をつけてやりなよな」

「はーい」

「シューッ」

到着!

 

後ろの車両からは、べんとう箱と水とうをさげた、たぬきや熊のきこりさんたちが、

「よーし!今日もはりきるぞ」

とか「あたらしい苗はちゃんとついているかな?」などと言いながらぞろぞろ降りてくる。

「機関士さんよ、いつもありがとうよ!」

「これからも頼むよ」

などといいながら肩をポンとたたかれる時が、たぬ神君たち機関士にとって一番うれしい時。

 

「さぁ!!」

二匹は、気持ちをひきしめて空を見上げた。

それから、朝日に背中を照らされながらのんびりと持ち場へ行く木こりさんたちの後ろすがたを見ながら、機関車の整備を始める。

 

「おまえ、もう50年もたつのに、よく働いてくれるなぁ! 感謝感謝」

と機関車をなでながら言うと、まず、かまの灰を取り、そのあとに、少しだけ残して火を消す。

全部消すと、次の出発の時、なかなかすぐに走りだせないからだ。

「おっと、その前に、転車台で向きをかえて貨車を後ろに連結しなきゃぁ」

と、たぬ神君たちは、機関車の向きを変えて帰りの準備はオーケー。

 

「じゃぁ駅長さん、木こりさんのところに行ってきま~す」3匹の明るい声に、大たぬ駅長さんは「頑張って手伝えよ。じゃまにならないようにな」

と、いつもの通り注意した。

2匹は走って木こりさんたちの所へと急いだ。

 

しばらく走るとゆう吉君が「あっ、あそこだ!もう三本も切ってあるよ」とさけんだ。

「今日も、木の枝を取って運ぶ仕事になりそうだぞ」とたぬ神君は予想した。

思った通り、木こりさんたちが二匹にたのんだのは、枝折りの仕事だった。

「思った通りだったね、たぬ神先輩」

「そうだね!」

「ガッカリコン」

「そういうなよ。木こりさんのうでを見てみろよ、きん肉もりもりで力がありそうだろ! やっぱり木を切り倒すのは木こりさんでなくっちゃ」

「あ~あ、一度でいいからぼくも大木を倒してみたいなぁ」

「ぼくも! でもさ、、やっぱりぼくたちは鉄道員だから、運転にうちこもうよ」

「そうですね!さすが先ぱい。いい事をいう!!」

「えへへへ」

たぬ神君たちは、かまを持って「ザッザッ」と力を入れて枝折りの仕事をやり始めた。

 

2匹の身体からは汗がふき出て、毛がぬれてきた。

「森の中っていがいに暑いですね、先ぱい!」

「うん、春だというのに、力仕事をすると暑くなってしまうねぇ!」

「ふひゃぁ!ふひゃぁ!」

2匹は、早くも長い舌を出して「はーはー」いうと、又気をとり直して楽しそうに枝折りの仕事を続けた。

木こりさんは・・・というと、あちこちに分さんして、前の日に目印をしておいた木を順番に切り始め、遠くかっら、近くから、「コーン コーン」と、おのの音を山にこだまさせている。

 

2匹も木こりさんのまねをして、ハンカチでねじりはちまきをして、おのを持った手つきで「コーン コーン」という音に合わせて手をふってみた。

「やっぱりつかれるでしょうね」

「なれなきゃぁつらいだろうなぁ」

「みんな、それぞれの仕事にせいいっぱい生きているんだから、がんばろうよ、ぼくたちも」

「そうですね。木こりさんたちが気持ちよく働けるように、安全運転するのがぼくたちに一番大事なことですもんね」

 

 

2匹は、時どきふいてくる風を気持ち良いと思った。

 

一番列車の仕事

 

汽車が寿山駅について、もう3時間が過ぎた。

木こりさんたちがそろそろ木を運んで来る時間だ。

たぬ神君とゆう吉君は、一時間程前からじょう気をあたためたりする仕事があるので、寿山駅の機関区にもどって整びをはじめている。

「エイサッ、ワッショイ、ドッコイショ」

木こりさんたちのいせいのいい声が聞こえてきた。

この木を全部貨車に乗せれば出発だが、これまた乗せるのがひと仕事。

まず、プラットホームに木をおいて、頭が良い「日本ざるさん」考あんの

「かっしゃ式 つり上げ機」をつかって乗せる。

だが、エンジンなどはもちろんなく、熊さんや大きい狸さんがワイヤーを引っ張って、かっ車の力を加えて木をつり上げるという仕組み。

でも、12年も前の機械なので、一週間に一度はブラシでこすったり、サビをけずったりしないと動かなくなってしまうというおんぼろ機械。

 

「ワッショイ!ワッショイ!」

駅の周辺は、かけ声でにぎやかになる。

もちろん、やさしい大たぬ駅長さんも「ドッコイショ!」と、あまりあてにはならない力をふりしぼって、かけ声だけは大きな声をはり上げる。

さぁ!、積み荷が終わって出発だ!

 

「発車ー!」

「発車ー!

「出発進行!」

「出発進行1」

「カチャッ カチャッ」

連結器のふれ合う音。

 

たぬ神君・ゆう吉君の顔も、一しゅんひきしまる。

寿山駅の駅長、大たぬさんも、右手をピシッと頭に持っていき、けいれいだ。

汽車は材木をいっぱいのせて。山の下の「町駅」に向かって静かに走りだす。

「シュッ・・・シュッ・・・シュッ シュッ」

 

いつ聞いてもじょう気の音はいいなぁ・・と、たぬ神君は思った。

みんなは、「無事で帰れよ~!」とか、「ごくろうさん~!二番列車によろしくな!」とか、口々に言いながら手を振ってくれる。

 

寿山駅に残った木こりさんたちは、ひと仕事がすんでプラットホームで一番列車が帰るのを見送ると、寿山駅で駅長さんと一緒にお弁当が始まる。

 

 

この「たぬき森林鉄道」は、【町駅】と【寿山駅】の間を、一日二往復し、時刻表は次の通りになっている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

★  一番列車

   7時発 (町駅)---8時着(寿山駅)

   (木こりさんも乗車)

   11時発 (寿山駅)---12時着(町駅)

   (木材列車)

 

★  二番列車

   14時発 (町駅)---15時着(寿山駅)

   (回送列車)

   16時発 (寿山駅)---17時着(町駅)

   (木こりさんと木材の列車)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

たぬ神君達はというと、下りこうばいの運転中。

下りは石炭をそれほどくべなくてもいいので楽ではあるが、何しろこの線はカーブだらけで、加速すると脱線してしまうので、ブレーキをうまくかけなければいけない。

かといって、かけすぎると、後ろの貨車の重さで貨車に押されて、連結器がこわれてしまうので、下りはブレーキの強弱が問題である。

 

上りの時に比べて、2匹の目はらんらんとかがやき、真けんな表情で運転している。。一番大きなカーブが過ぎると、やっとふつうの直線にもどり、そこから駅はもう近い。

 

ここらへんまで来ると、たぬ神君たちの顔にも笑顔がもどってくる。

「今日も一番列車は無事到着するよな」

「でも、まだ1キロ位ありますよ。ぼくはまだまだ投炭を続けますよ」

「最後のひとふんばりだ。がんばってやれよ。でも、たくさん入れすぎるなよ。かまそうじが大変だから」たぬ神君は、苦笑いして言った。

「な~んて話している間に、もうあと100メートルくらいですよ」

「ブレーキ!」

「ブレーキ!」

「短急汽笛三声!」

「短急汽笛三声!」

 

「ポッポッポッ」

 

この汽笛は、列車到着の、たぬき鉄道だけの合図で、駅長さんをよぶためのものでもある。

この汽笛をならす時は、機関士にとって、せきにんをはたしたうれしさでいっぱいの時だ。

また次の二番列車の機関士へのバトンタッチの合図でもある。

 

「シュー」

一番列車が帰ってきた。

「町駅」の駅長・たぬ左エ門さんは、短急汽笛の聞こえる前からプラットホームに出ていて、一番列車の帰りを待っていた。

 

短急汽笛三声で、駅員さんだけでなく、待ちかまえていた【大木屋】という材木屋のみんなも、いっせいにプラットホームに出てくる。

材木屋の皆はこれからひと仕事が始まるので、先に昼食をすませて、つまようじを歯の間にはさんで「シー、シー」などとやっている。

 

たぬ神君たちもそんな姿を見ると、弁当が待ち遠しくて、よだれを少したらしてしまう。

でも、もう少しのしんぼう!

 

「材木をおろして、大木屋の荷車に載せて、ちょ木所に運んでもらわなくちゃぁ」

「さぁ、昼めしはもうすぐ!もうすぐ!」

「はいはい、もう一息ですね」

「じゃぁ、整備にかかるか。お~い太一君、手伝ってくれないか」

 

たぬ神君は、プラットホームにいた太一君を見つけて声をかけた。

「は~い!待ってました!」

急いでシャベルを3本持ってきた太一君も、たぬき鉄道の機関士で、二番列車を運転することになっている。

 

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★   たぬ鉄職員はこの人達。

 

  ※  「町駅長」・・・・たぬ左エ門さん

  ※  「寿山駅長」‣・・大たぬさん

   ※  「職員」・・・・ 機関士ーーーたぬ神君

                        ーーー太一君                         機関助手ーーゆう吉君

 

             以上の5名

 

 

 

 

雨の日の運転 (1)

 

今日も列車は雨の中を平野を通り抜け、山に入りかけている。

 

「100メートル先よりこう配地点、砂箱開閉準備!」

 

たぬ神君がさけぶ。

 

「準備良し!」

ゆう吉君も元気よくこたえる。

 

「砂箱弁を開いて、少しづつ砂を落としてくれ!」

「はい!」

「ザザザザ」

ぎしぎしと車輪と砂のまじり合う音。

 

これは、坂道などの車輪がすべりやすい所で、車体の砂箱から少しづつ線路に砂を落し、すべり止めをするためのものである。

 

雨の日は、すぐ雨水といっしょに流れてしまうし、ふつうの日でも、風などで吹き飛んでしまうから、雨や風の日は、一、二番列車とも、たくさんの砂を用意しなければならない。

 

今日も砂箱に満たんの砂を入れてきてある。

 

梅雨時には、風がふけばいいが、雨水で流れた砂がまくら木のそばに落ちて運転のじゃまになってしまうので、時々ほうきではかなくてはならない。

 

このところ、梅雨に入り、にわか雨が長く続いたので、こう配地点の5キロの間の線路には、砂がたまってしまった。

 (画像MEME)

 

そんなある日、大たぬ駅長は、一番列車と二番列車の間に、お弁当を食べると直ぐにこう配地点までの3~400メートルを歩いておそうじに出かけた。

肩から、ほうきとシャベルを「ドッコイショ!」と下ろすと、「さぁて、始めるか」といってあたりを見回し、「ありゃ!砂がちらかっていないぞ!こりゃふしぎ・・・!  あれ?、あそこにちゃ~んとはき寄せてある!

一体どうしたことだろう! きつねにつままれたようだなぁ」

 

大たぬ駅長さんは、ふしぎそうに目をパチクリしていた。

 

その時、「ポーーッ」とかすかな二番列車の汽笛の音が町駅のほうから山の間にひびき渡った。

 

「ハテと・・、もうそんな時間か・・・。 だれかは知らないが、ごくろうさまでした」

 

大たぬさんは、首をひねりながらそういうと、「みんなにもこのことを知らせなくちゃぁ!。 明日は早めに見に来て、だれがやってくれるのか見ておこう。 お礼をいわなくちゃ」といいながら、寿山駅に帰っていった。

 

大たぬ駅長さんとほとんど同時に二番列車は駅に到着した。

 

時計を見ると14時43分だったので、大たぬ駅長さんはびっくり!

「ありゃりゃ!17分も早くついちゃったけど、どうかしたのかね?」

と大声を出してかけよった。

 

「あぁ、それが・・・ですねぇ、町駅機関区の方で、時計がくるってしまったんですよぉ!しかたないから、だいたいの見当で出てきたんですけど、そんなに早かったですか? スイマセン」

 

たぬ神君は、首をすくめながらあやまった。

 

「どうりで、ポーポー何回も汽笛をならすと思ったよ。

それにしても、もうちょっとでひかれてしまうところだった!あ~、くわばら くわばら!」

大たぬさんが、大げさに身ぶるいしたので、みんなは笑ってしまった。

 

「ところで、時計はこの辺では機械屋と寿山駅と町駅の駅長室にしかないんだから、早速機械屋のおっさんに修理してもらわなくちゃ!

帰ったらすぐに言って直してもらってくださいよ」

 

というと、さっきの事を思いだして、

 

「そうそう、今、こう配地点の砂よけに行ったらね、きれいにおそうじがしてあるんだよ。

君たちがやってくれたのかい?」と聞いた。

たぬ神君とゆう吉くんはお互いに顔を見合わせてから、二人とも同時に首を横にふって「いーえ、気にはかかっていたんですけど、一体だれがやっておいてくれたんでしょうかねぇ」と言った。

「うん、明日は早めに行って、たしかめてこようと思っているんだけど」

「そうですね、ついでにお礼もいわなくちゃ!」

などと言っている内に、木こりさんがやってきて

「機関士さんよ、今日はまた随分早い到着ですな?どうかしたんすか?」

 と聞いた。

「あぁ木こりさん・・・。いやね、時計が狂ってしまったもんでね」

とまたもたぬ神君は頭をかいた。

「いやぁ!今日は思いっきり仕事をしようと思っていたのに、昼食のあと、一・二本で雨が降ってきちゃってね。 三本目に入った時にザーッでしょ。

途中でやめてかえってくると、木がふやけて、いつ倒れるかもわからないし、森のおそうじに来ているアライグマさん達がきけんなので、三本目を切り倒してから帰ってきたとこですよ。

いやぁ・・、おかげでびしょぬれ!今、からだの雨水をタオルでふいていたんです」

「ほんとに梅雨はいやですねぇ」

「ところで、ふきながらとなりの部屋で聞かせてもらいましたが、一体、だれがやってくれたんですかねぇ・・・」

と木こりさんも首をかしげた。

 

その内に、大たぬ駅長さんが雨ガッパをごそごそと着はじめた。

「あ、駅長さん、どうしたんですか?」

とたぬ神君が聞くと、

「いや、木こりさんたちが雨にぬれるから、貨車にカバーをかけなくちゃとおもってね。みんな手伝ってくれるかい?

なんせ、一時間も乗らなくちゃいけないんだから、かぜをひいてしまったら大変だ」

「そうですね、みんなでやりましょう」

と、木こりさんやたぬ神君達もいっせいに立ち上がった。

「ジャノメがさがあるから、二人に一本だけど、さしてやってくださいよ。」

「あ、たぬ神君とゆう吉君!砂箱に砂を入れる時は、新式のが手に入ったから、それを詰めてくれよ。【すな大】さんから届いた「アー三」という砂なんだ。 合成砂だから、そうじがしやすいらしいよ。

一番倉庫の左の奥にあるからね。雨の日はいそがしいのぉ・・・」

 

大たぬ駅長さんは、みんなにさしずすると、せかせかと雨カバーを取りに出かけた。

   

雨の日の運転 (2)

「あ、これが【アー三】かぁ、どんなものか使ってみよう!楽しみだな」

二匹は、「アー三」の砂を砂箱に用意した。

 

「さぁ!入れ終わったぞ!雨カバーをかけるのを手伝ってこようっと。雨はいやだなぁ」

「でも、あと3日でこよみの上では梅雨上がりの日になるそうですよ」

とゆう吉君が言うと、

「よく知ってるなぁ」とたぬ神君は感心した。

「いえ、エヘッ、それほどでもないすよ。太一さんが教えてくれたんですよ。

たぬ神先ぱいが天気予ほうの天才と同じように、太一先ぱいは【こよみ】の天才ですもんね。いつもこよみのことは教えてもらっているんですよ」

「へぇ~?! 太一君がこよみの天才とは初耳だなぁ」

「知らなかったんですか?それは初耳だなぁ!」

「えっ・・、ア、あはははは」

二匹はせっせと働きながら、楽しくおしゃべりする天才でもある。

 

「やれやれ、雨カバーかけも終わったし、今度は機関車の整備だ。

今日はずいぶん機関車のボイラーに雨があたっているから、ちょっと、かまの火を強くしておこう。ゆう吉君たのむよ」

「はいっ!、わかりました!」

 

ゆう吉君は、石炭をかまにくべ始めた。

しめっているので、なかなかもえ上がらない。

 

ゆう吉君は、出発時間がせまってくるので、いらいらし始めた。

「そうだ!」

と手を打って、かまのふたを開け、新しい空気を送り込んでみた。

「ボッ」

石炭はいきおいよくもえ上がり、えんとつからモクモクと黒い煙をはきだした。

ほっとしたゆう吉君を見て、そばで点検整備をしていたたぬ神君がにっこりと肩をたたいた。

 「さぁ、いつでも出発できるぞ!」

「そろそろじかんでーす!出発用意してください」

 

 

木こりさんたちは、ぞろぞろと貨車に乗りこむ。

さっきの雨カバーの中は、いくらか温かい。

「さぁみんな、いいですか・・、あっ、そうだ、今日は大たぬ駅長さんが寿山を下って、町駅の自分の家へ帰る日だから、ちょっと待ってやって下さい」

「ああ、そうだそうだ、【5】のつく日にかえるんでしたね」

「雨に気をとられて忘れていましたよ」

 

みんな、わいわい話し合って待っていると、

「ハァ ハァ、お待たせ!お待たせ!今日は雨がひどいんで、戸じまりをげんじゅうにしなくちゃいけないんで、おそくなっちまった」

「さぁ、出かけましょう」と大たぬ駅長さん。

 

「出発ー!」

「出発ー!」

「シュー ・・・  シュー ・・ シュッシュッシュッ」

二番列車は、ゆっくりと寿山駅をはなれた。

 

今日は寿山駅のプラットホームで見送る人がいない。

ただ、緑の木々が風にゆれているだけだった。

 

まだ空はどんよりして、雨が降りつづいている。

 

山の下の方で「ポーッ」と汽笛の音がした。

 

二番列車のけむりは、もくもくと遠くの方まで続いていた。

その煙も今はうすくなり、寿山駅はしーんと静まりかえっている。

線路上の「アー三」の砂は、しだいに雨水に流されて、まくら木の辺で止まる。

明日も雨は続きそうだ。

「ポー」

かすかな音が寿山のふもとの方から聞こえた。

たぶん、次の汽笛は「短急三声」だろう。

 

 

     

たろう君の手伝い(1)

今日も、朝っぱらからどんよりとした空気で、ひと雨きそうだが、町駅の方では・・・。

「たぬ神先輩、今日の天気予報はどうですか?」

太一君が聞くと、たぬ神君は、頭の方をさわって言った。

「ふむふむ、今日は午後から雨が降りそうだな。

【アー三】の残りは二番列車に取っておいたほうがよさそうだな」

「そうですか、では、一番列車は古砂を使用しましょう」

「そうだな・・・」

「ああ、そうそう・・、ふたりでいつもの時計やさんに時間を聞きに行きましょう。また昨日みたいに時間がくるうと大変だから」

「そうだね、自転車を用意してからすぐ行こう」

「はい!」

二匹は、緑のむこうに遠くぼけて見える【大日本時計】という、小さなかんばんに向って走りだした。

時計やさんにつくと、おやじさんに時計を見せてもらった。

 

「昨日のしゅうりの時計は、もう二・三日まってくんさい。おお急ぎで直しますけんど」

と、時計屋、けん、機械屋さんは、町一番の頭の良いおやじで、何でもすぐ直してくれる便利なたぬきだ。

 

二匹は、時計を見ると、もと来た道をのんびりゆらゆら体をゆすりながら自転車をこいで帰ってきた。

 

「まだ7時30分前でしたよ。 でも、もう整備にかからなくちゃ」

たぬ神君は、たぬ左エ門さんに時刻の報告をすると、すぐに機関区の方へと走っていき、たぬ左エ門さんに転車台を回して貰って、ゆっくりと貨車の方へ機関車を後進した。

「ガチャン、ガチャン」

連結器がはまり込んだ。

 

おおたぬ寿山駅長も今日は一番列車でまた寿山駅へ帰るので、

「おはよっす!」

とやってきた。

 

木こりさんたちの声がにぎやかに近づき、昨日の雨カバーをガサゴソとかついで来た。

「ドッコイショ」

「セーノー、ウンショ」

とかけ声をかけながら、何とか貨車につみこみ、自分たちも乗りこんだ。

「さぁ、出発しましょうか」

と大たぬ駅長が言うと、

「おーい、待ってくれー、ぼくをおいて行かないでくれー」とねぼうした木こりさんがさけびながら走ってくる。

「あ、一人おくれて来たから、ちょっくら待ってください~、機関士さん」

と木こりさんたちがさわいで、やっとまにあった。

 

大たぬ駅長が

「おまたせ!もう出発していいよ」といった。

「出発-!」

「出発ー!」

ポーと汽車は動き始めた。

 

ぷらっとホームのはじの方には、たぬ左エ門さんがはたをふって、一番列車を見送っていたが、列車が見えなくなると、ゆう吉君といっしょに駅長室へと帰って行った。

 

さて、一番列車が寿山駅に到着すると、いつものように木こりさんたちは元気にプラットホームにとびおり、

「さぁ!雨の降ってこない内にひと仕事やっちゃうべー」

「んだ!んだ!」

と言いながら持ち場に散っていった。

たろう君の手伝い(2)

そんな様子を見ながら、大たぬ駅長は、何となくそわそわしているらしい。

「どうしたんですか?大たぬ駅長」

と太一君が聞くと、

「いやぁ、きのうの親切な人を見つけに行ってみようとおもってね。

君たちもみんなで行ってみようよ」

「さんせいー!」

「砂のおそうじをしてくれるなんて、本当に感心ですね、きっと鉄道が好きな人だとおもうな、ぼくは」

「ほんと、それにしても、ちょっとふつうの人では気がつかないような仕事でしょ?【砂そうじ」なんて・・・」

「だれだろうねぇ・・・、楽しみ!楽しみ!」

3匹は、「早くいってみましょうよ!」と同時に言った。

 

意見のそろったところで、さぁ出発!

 

シャベルを持ち、歩き始めて、進行方向を見ると、線路わきの木からは、昨日の雨つゆが木の葉をつたわってポトリと落ちてくる。

 

画像(MEME)

 

雨上がりのけしきを見ながら、3匹はのんびりと歩いて行った。

「今日はいてくれるといいですね、大たぬさん」

「そうじゃなぁ、たぬ神君」

「そろそろこのあたりじゃないですか?、もう、下りこう配ですよ」

「うん、もうこの辺のはずなんだけれども、まだきてないらしいなぁ」

「もし今来ないとしたら、一番列車と二番列車の間の時間ですね、きっと」

「そうだね」

「しばらく待とう」

「ところで、この砂、変なもようが出来ているよ、何だろうなぁ」

「あ、ほんとだ!きっと、古い砂と、新がたの合成砂【アー三】がまじって、もようが出来たんじゃないかなぁ」

「きっと、そうじにきてくれた人もびっくりするだろうなぁ、これを見たら」

 

そんな話をしながら、三十分位待ったがまだ来ない。

たぶん、一番列車と二番列車の間にくるつもりなのだろう。

 

「駅長さん、まだ来ませんねぇ。たぶん、昼でしょうね、来るのは」

「そうだなぁ、もうそろそろ整備を始めなくてはいけないから、駅に帰ろうか」

「はい、そうしましょう。ぼくは町駅へ帰ってしまうからもう来れないけど、太一君は二番列車も運転する日だから、会えるかもね」

「会えるといいけど」

「じゃぁ、駅に戻ろう。そろそろ木を運びこんでいるかもしれない」

「じゃ、急いで帰りましょう」

 

というと、3匹は、走るように、歩くような、変な足取りで寿山駅へと帰って行った。

しばらくして、

「ハァハァ!  あーつかれた!なんせ、早歩きなんだもん」といって、3匹は駅にたどりついた。

「さぁ、さっそく木こりさんのお手伝い!お手伝い!」

と、つかれているのもかまわず、力をふりしぼっる。

 

「うんしょ」

「こらしょ」

「よいしょ」

などと、かけ声をいせいよくかけて、体をふんばって。材木を載せるお手伝いにせいを出した。

 

「さぁ、乗せ終わったぞ!いよいよ出発時間だ」

「じゃぁ、運転準備をしましょう」

一番列車が寿山駅を出発して、こう配地点にさしかかったころ、線路の近くの竹やぶのかげから、こっそりとあこがれるように機関車を見つめている目があった。

その姿は、たぬ神君よりだいぶ小さい。

どうやら子狸らしく、しっぽをピクピク動かしていたが、列車が通り過ぎると

「そろそろ始めようっと」

とひとり言ををいい、「ザックザック サッサッサッ」

と砂を取ったり、はいたりする音が静かな緑の中で聞こえてきた。

 

この子狸こそ、昨日も砂そうじをがんばってくれた「感心な人」だろうと思われる。

良く見ると、胸に「安狸たろう」と書いた名札が付いている。

 

しばらくすると、すっかりきれいになり、昨日砂をはきよせた所にもう一つ山が出来た。

「あー、きれいになった。

でも、今日の砂はおもしろい砂だったなぁ」とひとり言をいい、

「明日も来ようっと」

というと、線路を撫でて走って帰って行った。

残念ながら、またみんなは会えないらしい。

 

そのあとで、あきらめ切れない大たぬ駅長さんがまたのこのことやってきて、きれいにおそうじされた線路をみつけ、

「あれっ、わー!残念だなぁ!もう少し早く来ていれば会えたのに」と、

足をドンドンふんでくやしがった。

 

そして、かえろうとして、ふと足元の白い名ふだに気がついてひろいあげた。

「そうじをしてくれた人の名札かな・・・?なになに?【安狸たろう】だって!? ふーむ、たしか、【安狸】というみようじは、前に狸鉄道の職員で、機関士だった【安狸日知夫】さんのみょうじと同じだが・・・。まさか、日知夫さんの子供じゃないだろうなぁ・・・。

もしかして・・・!?

日知夫さんは、6年前、なだれ事故でなくなられたのだが・・・。

もしや・・、まさか・・、もしや・・・」

 

大たぬ駅長は、寿山駅に帰ると、みんなに名札を見せて説明した。

みんなは、しゅーんとして聞いていたが、

「きっと日知夫さんの息子さんですよ!

まだ小さい時になくなられてしまってかわいそうだったけど・・・」

「もう、12歳位かな?」

などと、それぞれに思い出話をしていた。

 

その時、木こりさんたちが帰ってきたので、木材運びやつり上げ機にちりじりになり、それぞれの手伝いにせいを出した。

 

二番列車は、木こりさんと材木を乗せて静かに静かに寿山駅をはなれて行った。

カタン コトン カタン

音がだんだん遠くなり、もうけむりでぼけて見える。

それを見送りながら、大たぬ駅長さんは

「明日こそはたろう君に会うぞ!」とひとり言を言った。

 

たろう君の手伝い(3)

さて、翌朝、寿山駅の大たぬ駅長は、ねおきのあくびをひとつ

「ふわーい!」

として、ねむい目をこすったあと、「バチャバチャ」とつめたい井戸水で顔を洗うと、顔をふきながら

「あー、さっぱりした!」と、いつものように大手を広げてしん呼吸。

 

朝日が見える。

 

木の間から、きらきらとこぼれおちる。

 

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 画像(MEME)

 

さっそくプラットホームのそうじを始めた大たぬ駅長さんは、時計を見て、あれ!?という顔で朝日と時計を見くらべて

「なーんだ、まだ6時半か・・・。

どうりでお日さまがちょっぴりしか登っていないはずだ」

といいながら、砂そうじをしてくれた「たろう君」に会えるうれしさで、わくわくしている自分がおかしくなった。。

食事をすましてしまっても、早く起きすぎて、8時の一番列車の到着が待ちとおしくて、小枝をひろって一人遊びなどしてひまつぶしをしていた。

 

やがて遠くの方から

「ポ、ポーーッ」といつもの汽笛が聞こえてきた。

 

大たぬ駅長は

「オッ、やっと来たか」

とにっこりうれしそうに立ち上がり、プラットホームに出て行った。

 

「シューッ」じょう気をはき出し、到着!

木こりさんがいっせいにとびおり

「おはよっっす」

「いいお天気ですなぁ今日は!」

「やっと晴れましたなぁ」

などとあいさつをして、第5植林地へと歩いて行った。

 

たぬ神君は早速

「日知夫さんの子供らしい人がいるって、本当ですか?」

と大たぬ駅長に聞いた。

「あぁ、その人が例の【砂そうじ】の人らしいんだよ・・、ほら、この名札がしょうこだよ。

線路のところに落ちていたんだ」

といって、おちていた名ふだを手の上に乗せてたぬ神君にさしだした。

「あっ、ほんとだ! 日知夫さんを思い出しますねぇ・・・、グスン」

とたぬ神君も、きのうの大たぬ駅長さんのように涙をうかべていた。

 

ゆう吉君が

「もう一度行ってみましょうよ」

というと、大たぬさんは、

「いやいや、これはわしの感だけど、一番列車と二番列車の間にそうじに来ると思うんだ。わしが後で行ってみるよ」

と言った。

「そうですか、じゃぁ、あとで行ってみてくださいね、駅長さん」

「はいはい」

大たぬ駅長は大きくうなずいた。

 

「じゃぁ、たぬ神先ぱい、機関車の整備に行きましょうか!」

「あぁ、そうだね」

と二人が機関車の方に行きかけると

「あれっ?雨が降りだしたみたいですよ!」

「えっ、でも、日は見えているし、空も青いんだけどなぁ・・」

と田ぬ神君はふしぎそうな顔をしている。

「じゃぁ、お天気雨かもしれませんね、すぐやむ!すぐやむ!、そうでしょ?お天気はかせ!」

「うん・・、あれ?もうやんじゃった!変な雨だねぇ、【お天気雨】っていうやつは・・、やっぱり山の上だから天気が変わりやすいんですね」

「全く!全く!」

と笑いながら、、スコップとバケツを持って二人は機関車の方へ行ってしまった。

大たぬ駅長も手伝わなければ悪いと思って、砂ばこに「アー三」の残ったのと、古砂をつめこみにでかけた。

「あれっ?大たぬ駅長、すみませんねぇ!」

「それにしても、この砂も、たろう君がそうじしてくれるんでしょうかね?」

と、みんなでしんみりと考えていた。

 

木こりさんの午前の仕事が終わり、みんなで木を貨車に積みこみ、さぁ!帰りの時間だ。

「発車―!」

「発車―!」

「出発進行!」

「出発進行!」

静かに、静かに、木を積んだ一番列車が寿山駅から町駅へと下って行った。

 

さて、こちら寿山駅では、午後のもうひと仕事のために残った木こりさん達とお弁当を食べた大たぬ駅長、二番列車が登ってくるまでにガンバロウ!と山の持ち場に散って行った木こりさんたちを見送ると、早速

「さぁ、行くか! 急がないとたろう君に会えないかもしれない」

と、雨の日は砂をまくのが必要な下りこう配のはげしい現場へと急いだ。

 

「・・と、そろそろこの辺だが・・・、いないなぁ・・・」

 

大たぬ駅長は、きょろきょろ辺りを見回したが、ハトの鳴き声と、むっとするような草のにおいだけが一面に広がり、シーンとしている。

 

大たぬ駅長は、感がはずれてちょっと肩を落としてショボンとしてしまった。

ところが間もなく

「あっ!」

と大声を上げて、目をかがやかせた。

 

そこには、子狸がのこのことシャベルとほうきを持って歩いてくるのが見えた。

大たぬさんは、しばらく棒のように立っていた。

何か言おうとしたが、何も言えずに立っていた。

 

何も知らないたろう君は、

「ザック ザック、サッサッサッ」と砂よけを始めた。

 

あたりはしーんとしている中、「グルッポッポ」というハトの鳴き声と、ほうきのシャッシャッという音だけが聞こえてくる。

つばを飲みこんだ大たぬ駅長は、深呼吸をしてようやく

「ねぇ君」

と声をかけた。

 

びっくりした子狸、たろう君は、

「はっ!!」

と思わずさけんだ。

 

大たぬさんは、「きみの名前は、たろう君でしょう?」

「はっ!はい!」

「はっはっはっ!、そうおどろかないでいいよ、私は寿山駅の駅長、大たぬ

 っていうんだよ。 毎日、砂よけそうじにきてくれているんでしょ?、お礼を言いたくて君を待ってたんだよ、ありがとよ!」

「えっ? あ・・・、えへへへ」と、大照れに照れて赤くなったたろう君。

 

「みんなでお礼をいわなくちゃっていうので、駅長の私が代表で会いに来たんだよ、本当に、いつもありがとう」

「い・・、いいえ・・、どういたしまして」

またまたたろう君はてれて、はなの頭をこすった。

 

「それにしても、ちょっと聞きたいんだが、君のお父さんは日知夫さんじゃないのかね?」

たろう君は、目をパチクリして

「そうです。6年前に亡くなりましたが、父の名前は日知夫です」

と言った。

「やっぱり・・・! 日知夫さんの子じゃったのか・・・。 ほぉーおお、こんなに大きくなって・・・! おーおーおー」

大たぬ駅長は、感動で言葉が出てこなかった。

 

「ところで、おかあさんはどうしていなさるかね」

とやっと聞くと、

「二十日位前から病気になってしまって、ねこんだきりなんです。でも、毎日ここを通る列車の汽笛を聞くと、いつも目をかがやかせるんです。

お父さんを思いだすんでしょうねぇ」

というと、急に決心したように

「駅長さん!ぼく、お父さんのあとをついで、機関士になりたいんです。

どうしても機関士になりたいんです。大きくなったら入れますか?」と聞いた。

 

「君は今、何才だい?」

「はい、12才です」

「じゃぁ、あと一年で入れるよ。13才になったら、かまそうじの役で入れるよ、来るかい?だけど、機関士になるには、それからまた5年もかかるよ、かくごはあるの?」

「もちろんです!入れてください!」

「あぁ、待ってるよ」

「わあー!うれしいっ! 早速お母さんに知らせなくちゃ! ぼくとお母さんの長い間の夢だったんです。

きっとお母さんの病気も良くなりますよ。 ありがとうございます!」

たろう君は、うれし泣きで顔がくしゃくしゃになりそうなのをグッとこらえていった。

大たぬ駅長も、昔の日知夫さんのおもかげと、たろう君の顔が一つになったようで、のどに何かがつまってしまい、言葉を出そうとしても口がモゾモゾするだけで何も言えなかった。

なみだが目からあふれそうなのを

「エヘン、エヘン」

などと、空ぜきをしたり、目をパチパチしたりしてごまかしていたが、

「しかしなぁ・・・、いい人を亡くしてしまって・・・。良い機関士だったのにねぇ。 君もお父さんに負けない位に立派な機関士になれよナ」

大たぬ駅長は、たろう君の肩に温かい手をそえた。

 

それから、短かいため息を一つして、

「お父さんが亡くなられてから、どこかに引っ越ししてひき上げていたようだけど、どこに住んでいたの?」

と聞くと

「山向こうの「松の木村」の親せきの家に行っていたんです。

だけど、お母さんが、やっぱりお父さんのいた鉄道のそばで汽笛を聞きながらくらしたいといって、二か月位前からまたここへもどってきたんです。」

といった。

大たぬ駅長が

「そうだったのか・・・、お母さんのお見みまいに、明日みんなで君の家に行きたいけど、むかえにここまで来てくれるかい?」というと、

「はい!、わー、お母さんきっとよろこびます!うれしいなぁ」

と大はしゃぎ。

 

めずらしく晴れあがった空からは、六月にしてはまばゆい光が辺り一面に散り、水をたくさん吸った緑がきらきらしていた。

 

未来の機関士と、老駅長とが固くあく手しあった姿が、いつまでもいつまでもそこに立ちつくしていた。

 


 

 

森林鉄道のあゆみ

「そもそも・・・」と、町駅の駅長「たぬ左エ門さん」は、三人に話し始めた。

「この森林鉄道をそう立したのは、大正時代のことじゃった。

この辺一たいは、すばらしい木がたくさんあり、この近くの「準ェ門」という頭の良い狸が、何かに利用できないかといろいろ考えた末、森林鉄道を作って、町に木を運びこむことを思いついたのじゃよ。

それにはいろいろとみんなの協力が必要なので、村の人に力をかしてもらって作ることにしたんじゃ。

もちろん、私も若かったんで、鉄道建設を手つだったよ。

その当時は、鉄道というものがどういうものか、みんなわからなくて、

【火をはくリュウが通るそうばい】などとうわさが流れると、みんなびっくりして協力しなくなり、最後は53人しか残らなくなり、それでも建設を続けたんもんじゃ。

 

もちろん、この私も53人の内の一人に入って、いっしょうけんめいやったけどのぉ」

「ところが、だんだんと建設していくと、それを見ていた反対の人達も、おそるおそるまた手伝いはじめ、どんどん協力者がふえて、60人、70人と仕事もずんずん進み、最後には150人位になったよ・・・、うん

最初からガンバッた人達は、なみだを流してよろこんだもんじゃて。

 

そうして、全線10キロの線路が、大正12年の8月18日に開通したんじゃ。

その時は、みんなうれし泣きに泣いたもんじゃ。

木こりさん達も年々少しづつふえて、5年目には19人にもなり、みんな、木を植えたり、材木を切りだしたり、せいを出したおかげで、こんなにりっぱな寿山になったんだて」

 

一息つくと、また話しだした。

「ところで、その当時、この狸経営の森林鉄道は、なんと、【ケチ鉄道】とよばれていたんだよ。

その訳は、材木屋さんの一週間の予約運ちんは、25円50銭(当時の金がく)という大金で、一日に一往ふくしかしていなかったとくるから、お金が足りなくなって苦労したんじゃよ。

でも、初めてのことだったからしかたないんだけど、だんだんする内に、ちゃんと安くても出来るようになって、みんなに親しまれる今の【たぬき鉄道】になったんだよ」

 

今も、昔も、名は変わらぬ「たぬき森林鉄道」。

 

たぬ左エ門さんは、フーッとたばこをすいこむと、キセルを火ばちに「コン」とおろして灰を落とした。

 

この話を聞いた三人は、「へぇ・・、そうだったのか。当時の工事すがたのたぬ左エ門さんが目にうかぶようだな・・」といった。

 

たぬ左エ門さんは、また「ほら、あそこの土には、その頃の人の涙がいっぱいしみこんでいるんじゃよ」と「記念ひ」のところを指して言った。

たぬ神君達3人は、たぬ左エ門さんが指さしている方を一せいに見た。

そこには、小さいけれど良く手入れがされた石ひがあった。

 

「へぇ・・、今までは何も気にもとめずに通りすぎていたけど、そんな大事な記念ひだったのか・・・」と、あらためてたぬ神君達は見直して言った。

 

「ぼくたちも、この二本の線路を大切に大切に使って、次の時代の新しい機関士さんにわたしてあげなくちゃ!」

「そうだね!」

「ほんとに良いお話を聞かせてもらいました」と、口々に顔を見合わせて言った。

たぬ左エ門さんは、そんな3人を満足そうに目を細めて見ながら、また大きくキセルのけむりを吸い込むと、「はぁーーっ」とはき出しながら、キセルを火ばちの上に「コン」と乗せた。

キセルのけむりは、ゆらゆらゆらめきながら天井に向かって一すじ上がっていく。

 

 

町の時計台

梅雨も終わり、もう八月に近くなってきたある日

「あーあ、この時計はすぐに止まってしまうなぁ、これで5回目だよー」

とたぬ神君はため息をついた。

「そうですねぇ、先ぱい」

ゆう吉君も、太一君も同感らしい。

と・・、たぬ左エ門駅長が小さな声で

「そうじゃのぉ、みんな!  エイ!こうなったら、高性能の大きな時計を一つ、機関区の上に乗せるとするか!」といった。

「えっ、それ、本当ですか! たぬ左エ門駅長!」

と、みんなが目を光らせて聞いた。

「あぁ、ほんとうじゃとも、わしがうそをつくかい!」

聞かれたたぬ左エ門さんは胸を張って答えた。

 

そういうことで、たぬ左エ門駅長とたぬ神君二人が【大日本時計】の小さなお店へ行って、いろいろ相談することになった。

 

「ごめんくださーい」

「おやじさんいますかぁ」

二人はずんだ声で店に入った。

 

「へーい、・・おや!たぬ鉄のおふたかた、又コショウですかい?」

「いや、あんまりあの時計が調子悪くて、古いので困っちゃってねー」

「そりゃどうも、すいません。なんせ、あれは古いっスからねぇ」

「いやいや、そうじゃなくて、今日の相談は、おやじさんのうでを見込んでの事なんじゃが、機関区の屋根の上に、デーンと大きな時計を一つ乗せようかと思ってね」

「へぇー!そりゃすごい! 町の皆もよろこびますだよ!で、ドン位のを?」

「ついでの時に、カタログを取りよせておいてくださいよ、それから決めますから」

「へい!こりゃ、うでが鳴るわい!」

 

ということで、いよいよたぬ鉄の屋根につける【大時計建設】が始まった。

 

結局、520円(当時)の、四角型のが決まり、数日後、いよいよ時計屋さんの工事が始まった。

 

町のみんなには、出来上がるまでナイショにしておくことになり、たぬ左エ門さんは

「今は皆気が付かないが、その内工事が進んでいくと、おどろいて見物にくるぞ!」

とニヤニヤしながらひとり言をいっていた。

 

夕方。

 

「さぁ、今日はこれまでだ。手伝いの人、ごくろうさん!」

「じゃぁ、また明日!」

「おやじさん、さよなら」

 

みんな工事を止めて帰っていったが、おやじさんとたぬ鉄のみんなは、しばらく時計を見上げていた。

 

「ふー・・・」

たぬ神君がため息をついた。

その後から、たぬ左エ門さんもため息まじりで

「いい時計が出来そうじゃのぉ」とにっこりしている。

 

そして、いよいよ時計が出来上がる朝・・・!

 

「うーん、ねむいなぁ・・・、誰だい?ガヤガヤしてるのは」

朝から外がそうぞうしく、たぬ神君たちも起きてきた。

「ふうわぁーぁ」

大あくびを一つすると、

「まったくもう!すっかり目がさえちゃったじゃないか」

といって、窓のカーテンを手でよけて外を見た。

「あぁ!」

太一君のさけびに、たぬ神君とゆう吉君もびっくりして、

「なんだい!なんだい!」と窓にかけよった。

太一君はこうふんして、

「ほ・ほら!あそこを見てごらんよ!」と大声でさけんだ。

「むわっ!」

三匹とも、さっきの太一君みたいに大きな声を上げて

「こりゃぁ、一足先にみんなにやられたわい!」

「みんな、時計台の下に集まって居る!」

「そりゃっ!早く着がえろ!ぼくたちも見にいこうー!」

「よーし!さぁ急げ!」

とすぐに着がえて三匹は外にとび出していった。

 

説明をわすれたが、そこには、出来上がった時計に布がかぶさっていて、それが風にはためいていた。

 

たぬ神君たちは、みんなのところへ

「ひゃぁ!出来た!出来た! でっかいなぁ!!」

と大声でさけびながらかけよった。

 

みんなは、いっせいにたぬ神君達にふり向いた。

たぬ神君達は、こうふんしすぎてムイシキの内に大声を出していたのに気がつき、顔を赤くして

「てへ・・、うへへへへ」と照れていた。

 

機関区の上では、時計にかぶせた布が、今日の強い風にふかれてバサバサとなびいていた。

そのようすは、いっそう皆の好奇心と期待をふくらませる役目をしていた。

 

ときどき、風が強くなると、みんなはその風でふくれ上がったところのすき間から、チラリとでもいいから見えないものかと、下からじっと目をこらしてみていた。

しばらくすると、

「こりゃぁ、りっぱなもんが出来っちゃのぉ! おら、山ん中にいたで、知らんかったぺや、ありゃ、なんじゃらほい?! おら、ぶったまげてコケるがや、ほんに・・・!」

と、われるような大声を出してやってきたのは、山の炭やき小屋のおっさん。

時計台だと聞かされて、一人ではしゃぎ回っていた。

そのうち、

「よし!、針の長さを当てっこしよう、だれかやらないか?」

「おぉ!おれも入れてくれ!」

「よし、おれも!」

「うーむ、よし!、1メートルでいくか」

「じゃぁ、おれは1メートル20センチ!」

「むむ!いい線だ。じゃぁおれは、1メートル30センチ」

などと、かけを始めるものもいた。

炭やきのおっさんは、手ぬぐいのほっかむりを脱ぎながら、ワクワクしていた。

 

「あぁ、大変だ!そろそろ始まるぞ!みんな、見ろい!開まく式だぞ!」

「何じゃ、何じゃ!誰かさんが屋根に登ってくるぞ!」

 

「あんれ?ありゃぁ、たぬ鉄の機関区のたぬ左エ門さんじゃべや」

炭やきのおっさんは、たぬ左エ門さんと昔から仲が良いらしい。

 

いよいよ機関区長・たぬ左エ門さん・上神森の森長たぬべえさん・・と、おなじみの顔ぶれがそろい、時計屋のおやじさんが、すまして階段を登ってきた。

 

たぬ左エ門さんが言葉を正して

「えー、このたび、ここの屋根に時計がつきました。

みんなでかわいがってください。

この時計の針の長さは・・」

と、ここまで言うと、さっきの人達が首を長くして、いっそう「フムフム」というように体を動かしてワクワクしているようだった。

 

「・・・、1メートル20センチで、時計全体の直けいは2メートル10センチです。

では、この後、森長さんと、大日本時計の店長さんのお話があります。

どうか聞いてください」

 

次は森長さんのお話。

「ここの時計は、町のみなさんも、たぬ鉄の人も利用します。

大切に使って下さい。

そして、店長さんは、この町のシンボルマークの「ばら」を時計にきざみこんでくれました。

この時計は、皆さんの宝です!」

 

森長さんの次は「大日本時計」の店長さん。

「この時計は、とてもがんじょうに出来ています。

けども、石をぶつけたりしないようにしてください」

 

話が終わると、皆いっせいに大きな拍手を長くやっていた。

 

しばらくすると、たぬ左エ門さんが

「えー・・・!ごせいしゅくにお願いします。

いよいよただ今から、じょまく式を行いたいと思います」

というと、三人が、紅白のかざり付けがしてあるひもをギュッとにぎり、声を合わせる。

「では・・・!」とうなずき合うと、

「いち・にの・さん!!!」

でおもいっきりひもを力強く引っぱった。

次のしゅん間!ここにいるみんなは、おどろきのあまり、目を丸くして

「うわっ! す・すごいぞ!これは・・・!」と言った。

そこには、四角形の美しい飾りつけのある、とてもりっぱな大時計があった。

 

今、時計にかかっていたまくは、ヒラヒラと下へ落ちて行った。

しかし、皆が時計に見とれている中、落ちていくまくに目をむけたのは、熊のおっさん一人だけであった。

「ふひゃぁー! きれいじゃのー! おらぁ、じょまく式ってのは初めてじゃが、まくがおちるってのぁ、きれいなもんじゃなぁ!!!

どうじゃ!風になびいて、このきれいさは!

うーん!ほんに、もう一度やってくんねぇかな?」

と熊のおっさんは、一人で感心して、大声でしゃべっている。

ほかの皆は、シーンと首を上にむけて、大時計のすばらしさないみとれているのに・・・。

 

今日は、風がとても強いが、その大時計は少しも動かなかった。

ただ、その大時計の針だけがコチコチと正しく動いていた。

 

皆の毛は風になびき、砂場からはほこりがまい上がりるほどの強い風がふいていた。

 

そして3時間後、・・・。

 

みんなは、ちりぢりに帰って行き、機関区の門は静かにしまっていった。

狸たちは、

「あしたも多分、見物の人達でにぎわうぞ!この時計台は」

と口々に予想していた。

 

夕方・・・。

 

時計台には明かりがともった。

ゆう吉君は「あっ、明かりがともったぞ。ぼく、ますます気にいったよ!」とさけんだ。

大時計の針が「8時」をさした時、満月が時計の針にキラリと光かった。

 

早くも機関士達のいびき声が

「グググ スー」とあたりの空気をふるわせている。

明日の朝の仕事も早い。

 

町の夏まつり(1)

 

「・・・・では、お祭りを、ぜひ見に来て下さい。さようなら。

     8月25日      たぬ神から、おっかちゃんへ」

 

どうやら、たぬ神君は手紙を書いたらしい。

 

「・・・と、さぁ出来たぞ! いよいよお祭りまでは一週間だ。

そういえば、おっかちゃんに会うのも半年ぶりだなぁ・・・」

たぬ神君は、手紙を書き終わると、ふうとうに切手をはって、

「1丁回村 1ー8  寿狸(ひさり)眞狸子さまへ」

と表がわに書いて、封を閉じた。

 

その後たぬ鉄の「職員・町内 専用ポスト」というポストに手紙を入れて、

「さぁて、・・・、みんな、どんなのを書いているかなぁ」というと、ゆう吉君も手紙を出しに歩いてきて、

「センパイ、もう、出したんすか?  ぼくなんて、二枚の手紙を書くのに、2時間もかかったんすよ。 ぼくって、どうして手紙を書くのが弱いのかなぁ」と、頭の後ろをかきながら手紙をポストに入れた。

 

たぬ神君は

「いやいや、ぼくは一枚半しか書かないけど、一時間以上かかっちゃったよ。おたがい文章は苦手だな・・・!」と言った。

 

その内、太一君も、たぬ左エ門さんも、それぞれの手紙を出しにきて、

「下手な字だけど、親だからわかってくれるだろうなぁ」とかいって、自分の文の下手さを言いあっていたが、本心は、全員、自分の手紙に満足していたらしい。

そのしょうこに、皆の顔には笑顔が浮かび、わくわくしているのが良く分かった。

 

その時、上神森の方から、やぐらを建てる音が

「カン!カン!カチン!・・・トントントン」

と山の間にひびいてこだましてきた。

みんなは

「もう、ヤグラを立てているのかぁ!ずいぶん気が早いなぁ!

そのうちにきっと、たいこや笛の音がしてくるよ、あぁ、楽しみ!」

と、今から楽しみにしていた。

 

そのヤグラは、その日から5日間で出来上がり、6日目からは、たいこやいろいろな美しい飾りつけなどの仕事が始まった。

 

そして、毎日、毎日、夕方になると

「ピーヒャラピ   ピ   ピ」

と、途中でつっかえつっかえの笛の練習の音が聞こえてくる。

でも、お祭りの一日前には

「ピーヒャラピッピ  ピー ヒャラピ  ヒャラピ」

と、つっかえないで最後まで吹けるようになったようだ。

 

そのれん習をそっとのぞくと、何と笛係の人は「大日本時計」のおっさん。

 

さて、祭りの前の日の夕方、たぬ神君とゆう吉君と太一君のおかあさんがそれぞれやってきて、大きな声で

「おー!たぬ神ー!なつかしいのー!」とか、

「ゆう吉よ、身体は大丈夫か?久しぶりじゃのぉー!」とか

「太一!元気でやっとるそうじゃのう、わしゃ、夏祭りを忘れちょったで、手紙で思いだしてやってきたんずや」

とかいって、走りよってだきついていた。

 

一方、おじいちゃんのたぬ左エ門さんは、自分のお兄さんの狸太郎さんと、妹の花狸子さんをよんで、だきついて

「おーー!なつかしいのう!相変わらず元気そうで何よりじゃ!」

「うんにゃー、ちと、カゼをひいてしもてな・・・。つい2・3日前に床から上がったばかりで、まだうつるかもしれんばい」

「うひょう!こりゃ一大事じゃて、あはははは」

「へへへ」

などと、なつかしい会話にはずんだ。

 

次の日、いろいろお祭りが始まるので、森や町の人はみんな

「うほっ、いよいよ待ちに待ったお祭りだな!

わーい、うれしいなぁ!」

などとはしゃいでいた。

 

朝日が上りはじめて、一時間とたたぬうちに、神社の中は人ごみになってしまった。

そんな中に、炭やき小屋のおっさんもまじっているらしく、

「おらぁ、一か月と三日前からわくわくしていて、うれしいて!」

などと、田舎なまりの大声がどこかから聞こえてくる。

通りかかった森長さんにも、

「お、おぉぉぉ、こりゃぁ すんちょうさん(そんちょうさん)、いよいよまちにまったお祭りですのぉ!それにしても、全くどえらい人ごみですのぉ! 動くにうごけんデスバイ」

と、またまたいなかなまりでしゃべりまくると、森長さんは、

「え・・、えぇ、全くですなぁ・・・」

と調子を合わせている。

 

とつぜん、

「ピーヒャラ  ピ」!

と、時計屋のおやじさんの笛がはじまり、続いてタイコも

「ドンドン カッカッカッ ドンカッカ」

と調子よく鳴りだして、山の間に鳴りひびいた。

 

その音がすると、みんなは口を動かしていたのをやめて、じっと笛とタイコの音を聞いていたが、またもや炭やきのおっさんは、

「こりゃぁ!いよいよ 本当の祭りになるじゃぞい! うほっ!楽しみじゃばい」

と、両手を胸の前に会わせて、とびはねながら言った。

 

一方、たぬ神君たちは、お母さん達の手を引いて、うれしそうに祭りの見物をしていた。

 

このあたりのことを知らないお母さんたちは、何もかも珍しく、

「おっ!ちょ、ちょっと待ってくんろ、こりゃぁーなんじゃらほい」などといっては、道のすみずみまでゆっくりとながめていた。

しばらくして、たぬ神君のおかあさんは、ガラスでできている指輪を売っているのを発見して、

「こりゃー、きれいじゃのー、何というきれいさじゃ! この赤い色のきれいなことー」とさけんだ。

親孝行がしたくてたまらないたぬ神君は、早速

「おっかちゃん、買ってあげるよ、どれがいい?」とやさしくいった。

すると、

「おぉ、ありがとうよ、・・・と・・・、いざそういわれてみると、いろいろなのが目につくばい」と言いながら、む中でじゃらじゃら手に取って選んでいたが、

「これにすんべっかや」

と大決心をして、たぬ神君にちいさな声で

「これをたのんでくれるかの・・・」

と、自分の気に入った指輪を手渡した。

その指輪は、赤い丸いガラス玉がついていて、その周りにには、金色の花が囲んであって、とてもきれいだった。

「これ、お願いします」

と、早速たぬ神君は店の人に53銭といっしょにさし出して買うと、お母さんの指にはめてあげた。

ちょっとはずかしそうに、手を前にだしてにあうかどうかながめて、大満足の様子だった。

 

しばらくいくと、オミクジを引く所があり、

「どうぞ、大吉ですように」と願って引いたら、たぬ神君もお母さんも

「大吉」で、

「やっほー!大吉だ! こりゃぁー近いうちにお嫁さんをもらえるかな?」

とか、

「みてみんろ、おらのは、【子は元気、親は幸福】って書いてあるべら!  やっぱしお前もけっこんするかもしれんぞ!楽しみ!楽しみ!」

などといいながら、二人でくすくす笑いあった。

 

そのとなりの本堂へ行き、50銭のおさい銭をチャリーンと投げて、

「パチ、パチ」と手をたたき、「ジャラン!ジャラン」と鈴をならして、念入りにお参りをすると、次は、お守り札を売っているところへ歩いて行った。

棒くじを引くと、おかあさんは「寿の神」で、たぬ神君は「福寿」だった。

「今年は、ほんに二人ともきっと良いことがあるでや」

といいながら、笛やたいこの場所へやってきた。

笛は「時計屋のおっさん」、たいこは力自満の木こりの「くまっ八」さん。

ねじりはちまきを頭にしめて、力いっぱいたいこをたたくものだから、

「どーん!どーん!」とたいこの皮がやぶけそうな大きな音を出していた。

おかげで、やぐらがそのしん動で、

「びーん、メリメリ、ミシミシ」と、今にも倒れそうに感じられるくらいであった。

 

町の夏まつり(2)

くまっ八さんは、たたきながら去年のことを思いだして、思わずニヤニヤしてしまった。

去年も、くまっ八さんは、得意の力をふりしぼってたいこをたたいていたが、森長のたぬべぇさんは、くまっ八さんのたいこたたきにほれて、

「くまっ八さんよぉ、わしにもいっぺんたたかせて下さいよ」

と頼みこみ、バチを貸してもらった。

大張り切りの森長さん、うでまくりをして大熱戦!

ところは、5・6会たたくと、「コキリ」とぎっくらごし・・・!

その場でぺたんとすわりこんでしまった。

おどろいたくまっ八さんが走り寄って

「だ。大丈夫ですか?森長さん!」とだきおこすと、

「ありがとうよ、あー、いてててて」

と、年も考えずにタイコたたきをした自分がはずかしいのと、痛いの戸とで、泣き笑いをしていた。

その後も、二日間、床の中にいるはめになり、とんでもないお祭りになってしまった・・・という話。

 

たぬ神君たちがお母さんと仲良く手をつないで歩いているのを見たたぬ左エ門さんは、親がいるのをうらやましく思い、自分も兄妹と手をつないで仲良く歩いて行った。

でも、なんだか、あんまり「サマ」にはなっていなかったようだけれども・・・。

 

それから一時間後、

「おみこしかつぎの希望者は、急いで本堂前の事務所まで集まってくださーい」という声がしたとたん!、子供たちは「ぼく、かついでくるよ!」

「ぼくも行ってくるね」「おっかちゃん、見ててね!」などと、口々に言ってかけ出していった。

 

たぬ神君やみんなも、

「よーし、年に一度の行事だ!ひとふんばりしてやるか!」

「よっしゃー、やるぞ!」などと言って、かけだしていった。

 

一方、くまの炭焼きおっさsんも、

「どんりゃ!おらもいっちょやってみんべかや、ほらせ!わっせ」

と走って行ったが、大太鼓の前を通った時、思い切って一発、あの大きな手でたたくと、

「ドドーン! ビ―――ん」と良い音がした。

 

さぁ、みこしのことはそのしゅん間におっさんの頭からは消えてしまい、

「ドンドン  カッカッカッ   ドドドン カッカ」と、夢中でdたたいていたから、みこしが行ってしまったのも気がつかない・・・。

 

汗を流してたたき続け、音の出るところだけでなく、たいこをのせる車を

「カンカン」とたたいてみたり、自分の頭を「ゴツン」とたたいてみたり、

「いっててて」などとさわぎながらだから、大変だ。

 

やっとみこしが帰って来るころに、

「ん?、あれ・・・?みこしがはどこへ行った―い・・。みこし・・みこし・・」

と我に返ってみこしをさがしたが、いっこうに見つからず、しかたなく、又たいこのところまでションボリ帰ってくると、

「ワッショイ ワッショイ」

と、いせいの良い掛け声が遠くから聞こえ、くまのおっさん、

「・・・と、もう帰って来たのか・・。おらはまた、場所をかえてもってっちゃったのかと思ったばい」

と、ガックリした様子でいった。

 

みこしをかついだ人には、全員に大きなスイカが配られて、たの神君は

「おっかちゃん、ほら見てよ!スイカ!スイカ!大きいでしょ?」

とさけびながらお母さんの方へ走り寄って来た。

小さい子など、重過ぎて

「わー、大きすぎて持てないよー」などと言って、係の人に支えてもらう子もいたりして、にぎやかに散って行った。

 

しばらくして、

「第二回、おみこしかつぎがはじまりまーす!お父さん、お母さんも、ふるってご参加くださいー」

と声がしたので、今度こそは!とくまのおっさん、

「よっしゃ!今度こそは・・・。オイッチニッッ、サンシッ」

と、準備体そうまでやって張り切っている。

 

いよいよ出発!!!

「ピー」

笛がなると同時に、

「ワッショイ」「ワッショイ」

と早くもみんなコウフンしてきた。

 

くまのおっさんも、顔を真っ赤にふんばって、

「ウワッショイ! ウワッショイ」と物凄い張り切りかた。

 

ところが、三分の二位の所で、だんだん声が小さくなり、

「ファァー、つかれた」

と列からはなれてしまった。

そして、一息つく戸と、「おーい、まてー!おらがいるじゃらー!!」と走りつき、今度は普通の声でかついで行った。

 

やとみこしはとうちゃくしたが、おっさんは、みんなが力をぬいてスピードをだんだんゆるめたのも知らず、「ウワッショイ!ウワッショイ!!」とかけ声をかけて、ちっとも力を抜かずに走っていき、みこしの飾りの木に頭をゴチンとぶつけて、

「おーいててて!どうした?どうしたんだい?・・・?

は、あれ?、なーんでえ、もうやめちゃったのか」と、にが笑いして、我に返っている。

 

2回目のお土産は「夏みかん」だ。

それを見たおっさんは、

「うほっ、夏みかんかいな、こりゃええぞ!」とさけび、うやうやしくもらうと、すぐに皮をむきはじめたが、なかなかあの太い手ではむけず、

「くそ!てめぇ、むけろ!」

などとつぶやきながらやっていたが、皮のしるがとび、なかなかむけない。

「よーし、こうなったら、おらの強い強い歯でかじってやるぅー!といって、歯で引きさきはじめたが、皮のにがーい汁が口の中に入って、

「このー、夏みかんめ!なぜおらだけにつらく当たるー!」

とカンカンになってしまった。

そして、落ちていた小枝でブサッとさすと、その穴から爪で上手くむくことができた。

「それみろ!、おまえ、こんなにうまいじゃないか!すなおにむかせろ!」

と、なつみかんの皮に向かっていった。

 

楽しかった夏祭りの一日目は夕方をむかえ、しずかに夕日がしずんでいき、一番星から順に星がふえはじめ、やがて月の色もこくなってきた。

やがて、あたりは真っ暗になり、くまっ八さんのたいこの音がひびいている。

 

さぁ!いよいよ夏まつりの最高のもよおし物、「盆おどり」がはじまろうとしている。

 

「盆おどりがはじまりまーす。やぐらの周りに集まってくださーい」

と係の人のさけび声が上がると、たちまちみんなはやぐらの周りにかけよってきた。

ゆかたすがたの者もいれば、シャツすがたの者もいる。

 

五分後、

「ドンドン」

とくまっ八さんの前そうがあり、

「ピーピー ドンカッカ」

と「狸音ど」のふしが始まった。

それと同時に、

「はぁーーー、たぬきぶし たぬきぶしでおどりゃんせ あ、よいよい」

と歌声が聞こえて、ザッザッと足音をたてながら、手足を前後左右に動かして、どくとくのおどりをやり始めた。

しばらくすると、皆の汗が地面にしみこむようになってきたが、楽しいらしく、調子を落とさずおどっている。

 

夜もふけ、日もかたむき始めたのに、おどりはいつはてるともなく続き、その音や声は、山の森にいつまでもこだましていた。

 

とんだまいご

「出発進行ー!」

「出発進行ー!」

 

二番列車が町駅を出発した。

 

こうばい地点にかかった時、

「ゴツン ゴソゴソ」

 

という音がたぬ神君と太一君に聞こえてきた。

「何だろう、今の音は・・・?」

「何でしょうか? 二番列車は木こりさんは乗っていないはずなのに・・・ね」

「きっと、空耳ですね」

と二匹が話していつ内にも、またも

「ガサゴソ、ゴツン」

と貨車の方から変な音が聞こえてくる。

 

「あれ?、だれか乗っていますね!」

「寿山駅に着いたら、すぐに見てみましょう」

と言っているうちに駅に到着。

 

すぐに後ろの貨車の方へ二匹は走っていき、カバーを開けてみることにした。

たぬ神君と太一君が

「それ!」とさけんでカバーを引き上げようとすると、「ウーン」という声がして、中から引っ張り返してくる。

 

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これから先は「ことども」で追加していきますので、よろしかったら見て下さいね。