★ 【 体操おばさん 】★
朝のラッシュが終わった電車の中、私の右斜め前に立つたご婦人。
扉が開くと同時に大急ぎで前のめり状態で駆け込んできて、荷物を荷台にドスン!と上げるのも元気が良い。
・・と、すぐさま何やらお始めになった!
かなりの混みようなのに、身の周りのスペースを素早く確保して、立ったまま元気オーラを一杯に振りまきながら、両手を「イチニぃサンシぃ・・・」と親指から広げたり折ったりの指の体操を大きなゼスチャーで始めた。
それが済むと今度は肩を左右にゆすり、柔軟体操。「イチニィ サンシィ」
それが済むと、首を前後に振りだした。
後ろに立っている若いお嬢さんの鼻のあたりに、体操女史のもじゃもじゃ髪が遠慮も無く襲い掛かる。のけぞるお嬢さん。
体操女史の、しっかとした清潔そうな装いといい、キリリとした潔癖感に支配された美しい顔立ちといい、縁無しメガネから見える涼しげな目といい、完璧に清潔好きの奥様風なのに、何故か髪だけは「もじゃもじゃ」の手つかず。
寸暇を惜しんでの彼女の自己鍛錬は、根っからの体操嫌いの私には耳が(目が)痛い風景。
と・・・
私の左隣の席の人が中腰になって降りるような気配・・・。
何気なく体操女史の方を向いた瞬間、彼女と視線がバッチリ合ってしまった。
その時だった!
えっ!えっ!・・・彼女が私ににっこり微笑みかけて来たではないか!
えっ!えっ!えっ!
今までこっそり観察していた私の視線を知っていたのかな・・・。ひぇ!
どぎまぎしながら曖昧な表情で目線をかわす私の目の端に映った彼女の行動・・・。
その思いがけない行動に思わず「二度見」をしてしまった!
先ほど荷台に放り上げた黒い袋を慌てて「うんしょ!」と引きおろしている・・・。
私の隣の「空きそうな」席に熱い視線を投げかけながら!
もはや、体重移動がその「空席」に吸引されるがごとく、ラグビーの選手がボールを受け取った直後の姿勢のごとく・・・。
ということは・・・。
そこで問題解決!
彼女の「にっこり」は、私に左隣の席を確保してぇ!という合図だったんだ!
*1
しかし・・、気が付いた時は既に遅し。
体格満点のおじさんがどっこいしょ!と座席を揺らして座った後だった!
それにしても・・・。彼女は私の右の方に立っていたのだから、私の左隣の席まで辿り付くには、三人の人を乗り越えて来なくてはならない・・。
普通、目の前の席が空けば、上記の「体格満点」さんでなくとも、そりゃぁ有りがたく・当然のように座りますがな・・・。
それを、三人の人垣を搔き分けて乗り越えて座ろうと突進するのは如何なものかと・・。
しかも、私に「隣の席の確保をお願いね!」的な微笑を投げかけてまで・・。
残念でした!体操おばさん・・・。
当てにした空席が「体格満点おじさん」で埋まるのを見ると、黒い袋をまた荷台に放り上げた女史。
その後の彼女の観察はもうストップ。
あの後、きっともう「体操」をする気になれなかったのでは・・・。
私は、彼女を一度も振り返らないで目的地で降りたのでした。
あの「隣の空席を確保して!お願い!!」的な意味合いの、彼女の微笑みが頭の何処かで反復しているような気触悪さを振り切りたくて。
それにしても、あれだけ熱心に自己鍛錬運動をしていたら、何人もの人を乗り越えた空席確保など必要ないと思うけどなぁ・・・。
わからん・・・。
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*1:+_+