★ いいこにしてるから! ★
3ヶ月ごとに薬を貰いにいく病院でのこと。
国立の「ガンセンター東」。
話せば長くなるけれど・・・(長くなりそうなのでこの先はカット!)、私はここへ3ヶ月置きに通ってはや○○年。
このセンターが出来てからすぐからだから、すっかり「患者の最長老」だろう。
暑い暑い、ある夏の予約日。
診察後、久しぶりに血液検査を・・・とのご命令で採血室へと向かう。
・・と、向こうから子供の声がする。
良く聞くと「良い子にしてるからぁ〜!」という涙混じりのだだをこねているような声。
なんだろう・・・。どうしてこんなところに子供が?といぶかりながら声の主を探すと、いたいた!
廊下の隅で立膝をした若いお父さんにまとわりついた2才程の女の子と、4才程の坊やの三人が、廊下の目立たない隅に固まってている。
「いいこにしてるからぁ!」「いいこにしてるからぁ!」何度も何度も同じ言葉をお父さんに訴えているのはその男の子だった・・・。
女の子を膝に抱き、だんだん大きな声になって今にも泣き出しそうな男の子の頭をなでて「しっ・・・」と口に手をやるお父さん。
それでも同じ言葉を繰り返す僕。「いいこにしてるからぁ!」
パパの胸に身を投げて訴える仕草が本気。
そうか、きっとお母さんが検査を受けているんだ!
そして、ただならぬ気配でおかあさんの危機を感じているんだ!
検査室に入ってしまったお母さんを待つ親子三人。
そこだけ、三人の塊が別の空間のようにしっかりと固まっている。
良い子にしているから、お母さんを返して! ・・・・。
私が採血室に入っても「いいこにしてるからぁ!」という声がずっと聞こえていた・・・。
採血を終え、下のロビーに清算のため降りると、そこにその親子4人の姿があった。
支払いをしているお母さんを、三人の塊がしっかりと寄り添って待っていた。
見かけはお元気そうで笑顔もあるお母さん。
気落ちした様子もなく元気なその姿、それだけが救いだったが、それからのあのご家族に平和が訪れているのだろうか・・・。
「いいこにしてるからぁ!」と訴えていたあの坊や。お母さんの胸に顔をうずめているかな・・。
「いいこにしてるから、お母さん元気になってね!」という叫び声が今も頭から離れない。
「いいこにしてるからぁ!」「いいこにしてるからぁ!」
あれから二十年近く。
立派に成人した「僕」を囲んで、元気になったお母さんとお父さん、美しい娘さんに成長した妹の4人が、笑いさざめく素敵なご家庭でいてくれると信じたい。
僕、「いいこにして」いたんだから・・・!
この病院は、23年通っていても、まだ慣れないし、気が沈む。
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